科学哲学の入門書として、「科学哲学の冒険」(戸田山和久著、NHKブックス、2005)を読みました。(この本を読んだきっかけは、こちらの記事にまとめました。)

科学哲学について最初に読むならどの本が良いかとインターネットで検索し、Amazonでレビューが高く、近くの図書館で借りられるこちらの本を読むことにしました。

内容はすべて学生と先生の対話形式になっています。科学や哲学が初めての人に向けて、わかりやすく書こうという思いやりが本全体から伝わってきます。教科書というよりは、ソファでごろごろしながら読める一般書に近いものです。私は理系のバックグラウンドがありますが、すぐに読むことができました。

今後の備忘録のために、おもしろいと感じた箇所などを以下にまとめました。

科学者と科学哲学

科学者と科学哲学との関係について、こんな説明がありました。

科学哲学の議論にもっと科学者自身が加わってくれることを望んているよ。それにね、多少ともまっとうな科学者は、必ずと言ってよいほど、研究しながら科学とは何かを論じたり考えたりしてきた。歴史的に有名な科学者で、科学哲学的な著作のない人を探す方が難しいくらい。(引用元:27ページ)

私は元々大学院で理系の研究をしていたので、哲学者ではなく科学者に近い立場です。そして今まで、科学哲学の本を読んだことはありませんでしたが、科学者の書いた一般書は好きでたまに読んでいました。(この本でも紹介されている数学者ポアンカレの本を次に読もうと考えていたところでした。)

私は科学哲学に興味を持つよりも先に、科学者がどのようなことを考え科学を営んでいるのか、ということにとても興味があったので、その興味と科学哲学に接点が見いだせたように感じました。

科学哲学の出発点

科学哲学がどんな好奇心を出発点にしているのかを紹介した文章がありました。

科学が宇宙のさまざまなおもしろい現象についてさまざまなことがらを解明してきたのだったら、科学は科学それじたいを宇宙で生じている興味深い現象のひとつとして研究対象にしてもいいはずじゃない。そもそも、科学ってのはどういうユニークさをもった現象なのか、もし科学が本当に宇宙を理解することのできる現象なのだとしたらそれは科学のどういう特徴によるのか、……(引用元:35ページ)

私は、科学という営みそのものが不思議という風にとらえたことがなかったので、とても新しい視点に思えました。そもそもなぜ科学という活動が成立するのか、なぜ科学で宇宙が理解できるのか、というのは確かに不思議です。科学者にとって科学の存在は当たり前のようなことなのですが、素朴な疑問ほど本当に興味深いです。そしてそれを扱うのが科学哲学のようです。

対象実在論とカートライト

対象実在論という、「対象の実在論」+「基本法則の反実在論」の話は、私も同じように感じることがありました。物理の基本法則は、結局本当なのか本当じゃないのかなんだかよくわからない、という疑問はずっとありました。

万有引力の法則が文字通り真になるのは、それがありもしない環境にあてはめられたときだけってことになるね。だから、ニュートンの法則を使って惑星の動きを説明しているとき、われわれはむしろ、厳密に言えば偽でありせいぜい近似にすぎないような法則を使っているわけだ。で、カートライトは、「それでいいのだ」って言うわけ。つまり、基本法則はとんでもなく理想化・単純化された状況についてだけ文字通りに真になるようなもので、実在の自然そのものにそのまんまあてはめれば偽だとしか言いようがない。(引用元:204ページ)

物理の基本法則の気持ち悪さ(現実とずれていてなんだか納得できない)というのは、こういうことだったのかと思いました。ここで紹介されていたナンシー・カートライトの「いかにして物理法則は嘘をつくか」という本はぜひ読みたいと思いました。

もう一つ、イアン・ハッキングの介入実在論の話も面白いと思いました。

あんたはどうしてドラムに電子を吹きつけているなどと分かるんだい。あんたはなんだか訳の分からない装置の引き金を引いているだけじゃないか、と言ってみた。そうしたら、イライラした様子で物理学者は、「吹きつけることができるんだったら、電子はたしかに存在するのさ」と答えた。(引用元:207~208ページ)

これも科学者からすると、ごく自然の感覚だと思うのですが、科学哲学の文脈で読むととてもおもしろいです。目で見えなくても、操作したり介入したりすることで実在すると言えるのは、これも当たり前のような気もするのですが、すごく大事な視点なのだと知りました。イアン・ハッキングの本は少し読んで放棄してしまったので、もう少し基礎知識がついたらちゃんと読もうと思いました。

次に読む本

この本のとてもありがたいところは、読書案内がついているところです。もう少し科学哲学の基礎知識をつけたいと思うので、次に読む本として紹介されていた本をメモします。

  • 伊勢田哲治「疑似科学と科学の哲学」
  • 内井惣七「科学哲学入門-科学の方法・科学の目的」
  • 正統派の教科書として紹介されていた後者の本を読みたいと思います。

    科学哲学に感じること

    私が疑問に思う、科学と社会のかかわりや、科学と人の幸せの関係などは、科学哲学よりもう少し広い学問になるのかなと感じました。科学哲学は、科学の基本的な考え方や議論が参考になると感じました。